100001: 「心の傷」は言ったもん勝ち
中嶋聡 著
沖縄で精神科医をしている著者が、普段の診療から感じていることについて書いた本。
内容はタイトルに尽くされており、著者はこの本を通して「自分にとって不利な状況に対してヒステリックかつ声高に対応するのではなく、普通に考えて普通に対応していこうよ」と主張したいのかな、と感じた。
著者が本書で定義した言葉に、「被害者帝国主義」というものがある。
被害者が「私は傷ついた」と申告するだけで被疑者がどのように申し開きをしたとしても、加害者であることが確定する社会。
実際に病院における会社、学校における親のように、弱者である立場をいいことに必要以上に強者として振舞う。
本人はそれがおかしいことだと気付かないばかりか、周囲が理解しない場合にはさらに被害者ぶり、強硬に振舞う。
この構図で怖いのは、自分がいつそのような立場になるかわからないことだと感じる。
いわゆるモンスターペアレンツになった場合にはさすがに自ら気付けると信じたいが、会社をサボるために疫病利得が生じるようなことはあるかもしれない。
処方箋は、冷静に事実に立脚した立場から現状に対処することだと書かれている。
原因についての責任はなくても、その状況に対処する責任は100%自分にしかないこと。
歯を食いしばって頑張るような場面もあることを知り、そのときには頑張ること。
周囲との関係を築き、典型的な判断基準で自分の言葉を判断するのではなく、相手と自分の関係性という一回こっきりのコンテクストにしたがって判断する力をはぐくむこと。
この本の内容は、賛否両論あると思いますが、現役精神科医が書かれたものとして非常に面白く感じました。